011 不思議な井戸

−死体を飲み込む井戸−



 スイスのジュネーブで夫婦喧嘩が起こった。妻のキャサリンがミンクの毛皮を買ってくれとわめき散らした。逆上した夫のミロは 妻の首を絞め、自宅の井戸に放り込んだのである。ミロは、妻が失踪したと警察に届けて、知らん顔を通そうとしたが、次第にノイローゼ気味 になり、「2年前に妻を殺し、井戸に捨てました」と自首した。しかし、警察が井戸を調べても、キャサリンの死体は発見されなかった。
 しかし、ミロは死体はいどのなかにあるはずだと主張し続けたため、病院に入院させられてしまった。
 キャサリンの死体は、ミロが病院に入ってから3か月余り経った頃、市中を流れるローヌ川から発見された。死因は絞殺で、失踪時と同じ 同じ服装であり、ここまではミロの自供と同じである。
 しかし、検死の結果、キャサリンの遺体は死後30時間しか経っていないと判断された。2年前に夫に絞殺されたキャサリンが、死後1日半という状態で 発見されるはずもない。謎の多いこの事件はマスコミが大々的に報じ、病院にいたミロの耳にも入った。
 ミロは、病院を抜け出すと自宅に戻り、妻を放り込んだ井戸に、自らも身を投じた。すぐに井戸の捜索が行われたが、またしても死体は消えてなくなっていた。 彼の遺体が発見されたのはそれから3か月後、妻と同じローヌ川だった。
 専門家は、この井戸の底の土が柔らかい砂状だったため、死体がずぶずぶと吸い込まれ、ローヌ川まで運ばれたのではないかと推測したが、2年前に 殺害されたキャサリンが死後1日半と断定されたことについては、いまだに解明されていない。




010 怪奇の扉 012
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