008 青山学院大学生殺害事件 出水智秀・飯田正美

(被害者・関係者は仮名、敬称一部略)
事件概要
 平成6年2月18日、世田谷区の2階アパートで青山学院大学4回生のSさんが自室で殺害されているのを、連絡が取れない事を 不審に思った両親の依頼で様子を見に来た親戚が発見した。犯人はSさんとは全く面識のない住所不定無職の出水智秀と飯田正美であった。 出水は被害者を殺害する前に、自分の彼女である飯田と被害者に性交をさせていた。

事件
 平成6年2月16日、世田谷区のアパートの2階一室から「うわー」という悲鳴が住宅街に鳴り響いた。その2日後の2月18日、連絡が取れなくなった事を 不審に思った両親の依頼で様子を見に行った親戚が、自室で殺害されているSさんを発見した。Sさんは頭部や腹部を刺されたうえ、首にビニール 紐を巻かれるという、凄惨な状態で入口付近に横たわっていた。
 Sさんの部屋から隣室にかけて血の付いた足跡が続いており、さらに隣室内からは血を拭いたタオルが見つかった。さらにSさんと同じアパートの2階に住む 学生は、2月16日の朝に不審な男女2人がSさんの隣室から出てくるのを目撃している。しかし、隣室の住人Hさんは2月6日から 宮崎の実家に帰省しており完全なアリバイがある。ただSさんは気がかりな事があった。それは半年前、中学時代から付き合いのある女友達が暴力団風の男を 連れてきて金を奪われたことがあり、さらに2月5日「近いうちにそっちに行くから待ってろ」と脅されたのである。身の危険を感じたHさんは翌6日に宮崎の実家に 帰省していたのだが、2月16日に目撃された男女2人のうち女の方はSさんの中学時代からの女友達である可能性があった。
 2月22日夜、静岡県の熱海消防署に「別荘でガスコンロが爆発して男が全身に火傷をした」という119番通報が入った。このアベックは2日前から別荘に無断で侵入し ガス自殺を図ろうと部屋にガスを充満させた後、最後の一服のつもりでタバコに火をつけるというマヌケな事をした出水智秀(当時20歳)と飯田正美(当時20歳)であり、 熱海警察署に住居侵入の疑いで事情聴取され、世田谷区の大学生殺しをあっさりと認めた。

出水と飯田の出会い
 出光と飯田が出会ったのは事件のおよそ1年前の平成5年の2月頃、名古屋市内の繁華街で出水が飯田をナンパしたことから付き合いが始まり、二人は大阪、名古屋、東京 、宮崎と車上狙い、窃盗を繰り返し全国を転々とした。
 そんな2人はやがて美人局に手を染める。Hさんは中学時代に飯田と交際しており、淡い思い出を共有する二人は平成5年5月に再開した。しかしそれは出水が計画した 美人局であり、2人はこの一件で2度にわたってHさんから現金を脅し取っている。平成6年の2月に3度目の恐喝をしようと「近いうちにそっちに行くから待ってろ」とHさんに 電話で告げ、東京のアパートに訪れたが身の危険を感じたHさんは宮崎に帰省しており部屋はもぬけの空であった。
 出水と飯田は裏側からHさんの部屋に侵入し、室内に残されていた1万1千円使いながら、Hさんを待ち伏せする事にした。しかし何時帰ってくるかも分からないHさんを待つ 日々に出水は徐々に追い詰められ、残金が1千円程になった13日の夜、出水は部屋にあったビニール紐を使って心中を切り出した。しかし、死にきれず隣の部屋の住人から 金を奪うという考えが浮かんだ。

現場で起きた異常性交
 15日の夜、帰宅してきた隣室のSさんに飯田が「換気扇が壊れて・・・」と呼び出し、隠れていた出水が果物ナイフを突きつけた。そのまま脅かしながらSさんの部屋に向かい 現金5万円とキャッシュカードを奪った。さらにSさんを縛り上げた。「たった5万円くらいで殺さないでくれ」と必死で命乞いをするSさんをタバコを吸いながら見下ろしていた 出水は「この世の思い出に、飯田を抱かせてやる」と言った。身動きの取れないSさんの下半身をあらわにすると、飯田を促した。飯田は一応は抵抗したが、出水は執拗に迫り やがて自ら服を脱ぎSさんの上に重なった。しかし、飯田の身体が反応してしまうと、出水はSさんから彼女を引きはがすと、自ら挿入。事を終えた出水がSさんの殺害を 口にした時、手首の紐が緩んでいたSさんが逃げ出そうとした。あわてた出水は飛び掛かって彼を羽交い絞めにし、飯田の手をかりてSさんの腹を1回、左胸を2回、頭を1回ナイフで 刺し、最後に喉を切り念のためビニール紐で首を二回絞めて殺害した。  

 
裁判
 平成6年3月5日、東京地検は出水と飯田を住居侵入、窃盗、強盗殺人で起訴した。出水は「Sさんは全く知らない人だから、可哀相なんて思うわけありません。そんな事を 思うようなら、最初から殺したりはしていませんよ」とさらりと言ってのけた。

 5月9日、東京地裁で第一回公判が開かれ、2人は起訴事実を全面的に認めた。
 さらに逮捕後の検査で飯田が妊娠していることが発覚する。拘置所における出水とのやり取りで出産を決意した飯田は、その理由について、 「好きな人とのあいだにできた子を殺せば、私は人を2人殺すことになるので産もうと決意した」と公判の席で説明している。

 9月5日、出水に無期懲役、飯田に懲役15年の判決が下った。

 平成7年10月、飯田は女の子を獄中出産。出産に反対だった彼女の祖父母は引き取りを拒否した為、通常の措置からいえば、女の子は2歳まで乳児院に入れられ、その後は 児童養護施設に預けられたことになる。


 <参考資料>
  ・殺人者はそこにいる―逃げ切れない狂気、非情の13事件 (新潮文庫)
 



007 事件の扉 009
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