019 パソコン遠隔操作事件 片山祐輔

(被害者・関係者は仮名、敬称一部略)



事件概要
 横浜市、大阪市のホームページ、2ちゃんねるの掲示板等に無差別殺人の予告や爆破予告が相次いで書き込まれた。 神奈川県警、大阪府警、警視庁、三重県警はそれぞれの書き込みで男性4人を逮捕。しかし、逮捕された男性のパソコンから 遠隔操作ウイルスが発見された為、逮捕された男性はそれぞれ釈放された。

 その後、真犯人と名乗るメールが報道機関等に届いた事により、警察トップが誤認逮捕を認める事態に発展した。  犯人からの挑発はさらに続いたが、警視庁は防犯カメラ等の分析から片山祐輔(当時30歳)を逮捕。片山は一貫して冤罪を主張し証拠不十分につき一時保釈 され警察の誤認逮捕かとも言われたが、保釈中の本人からの偽装メール送信により、犯人であることが確定し自供した。

事件と誤認逮捕
 2012年6月29日、横浜市のホームページに小学校への襲撃予告が書き込まれた。神奈川県警はIPアドレスを基に東京都内在住の少年の犯行と断定。7月12日に 威力業務妨害で逮捕した。少年は当初「何もやっていない」否認したが、送検後一転して容疑を認める上申書を提出し、家裁送致され、保護観察処分となった。
 7月29日には大阪市等のホームページに無差別殺人予告が届き、8月に大阪府警は吹田市の男性を逮捕。その後も警視庁が幼稚園への殺害予告メールで福岡市の男性を、 三重県警が2ちゃんねるに伊勢神宮への爆破予告を書き込んだとして津市の男性を逮捕した。

 だが、9月に三重の男性のパソコンから新種のウイルスが検出され、遠隔操作できる状態だった事が判明。大阪、三重に続き東京地検も逮捕した男性を釈放した。
 その後10月に、「私が真犯人です。」と題した犯行声明メールが、サイバー犯罪に詳しい落合洋司氏と報道機関に届いた。メールには、13件の殺害・襲撃予告への 関与と「警察に醜態をさらせたい」との動機もつづられていた。警察当局はメールに列挙された13件の犯行予告を実際に確認。10月18日には警察トップが 誤認逮捕を認める事態に発展した。
 4都府県警は合同捜査本部を設置し、誤認逮捕された男性4人に謝罪。検察は男性3人の起訴取り消しや不起訴処分の手続きを取り消し、少年の保護観察処分も取り消された。


挑発
 真犯人は2012年11月、報道機関などに再度メールを送りつけた。「ミスをしました。ゲームは私の負けのようです」などとし、自殺をほのめかす内容だった。 この時点で、合同捜査本は真犯人が8月下旬、匿名化ソフトを使わずにネット掲示板に書き込むミスをしていたことをつかんでいた。

 2013年1月1日の午前0時すぎ、真犯人から産経新聞記者等に「謹賀新年」と題したパズル形式のメールが送付された。パズルを解読すると、袋の入れられた 記録媒体の写真が出現し、合同捜査本部は写真の位置情報等から東京都の雲取山の山頂付近を捜査したが、記録媒体は見つからなかった。
 1月5日には「新春パズル〜延長戦〜」とするパズル付きのメールを送信。真犯人が示唆した通りに神奈川県藤沢市の江の島で首輪の付いた猫が見つかり、 記録媒体が回収された。


逮捕
 真犯人は5日のメールで「もうメールはしない」と宣言したが、江の島の防犯カメラに猫と接触する男が映っていた。 IT関連会社社員・片山祐輔(当時30歳)である。
 2013年1月中旬頃には既に、片山の存在は浮上していたが、防犯カメラで判明したのは、ネコに首輪をつけた人間であって、 誤認逮捕した4人のパソコンを遠隔操作した人物そのものではない為、警察は逮捕をためらっていた。しかし、2月になると 片山が猫に首輪をつけた人物として特定された事に報道各社が気付き、片山周辺の取材に動いていた。
 結局、遠隔操作を行っていた直接的な証拠がない中、警視庁などが2月10日、片山祐輔の逮捕にこぎ着けた。



冤罪を主張
 逮捕後片山は一貫して無罪を主張。警察は威力業務妨害やハイジャック防止法違反など7件の事件で片山を逮捕・起訴したが、ウイルス作成容疑での立件は見送った。 片山が関わったとされる事件は、全て遠隔操作ウイルスが絡んでいるにもかかわらず、肝心のウイルスの出どころが解明できなかったのは 致命的である。確かな物証を得られないまま捜査が終了したことは、警察の事実上の敗北宣言ともいえるが、 これについて捜査関係者は「片山が取り調べを拒否し、供述を得られなかったため」と説明している。

 しかし、これは事実と異なる。片山は取り調べそのものは拒否しておらず、 あくまで「録画・録音しなければ取り調べに応じない」と頑なに主張していただけだ。 それを拒んで実質的に取り調べを拒否していたのは当局側である。



保釈と自爆
 2014年3月5日、東京拘置所に拘留されていた片山は1000万円の保釈金を支払い保釈された。司法記者クラブで会見を行った片山は「自由とは眩しいものだな」と 発言した。

 5月16日、片山の裁判が開かれている時間に、自分が真犯人だとするメールが報道機関等に送られてきた。メールには、自分が片山のパソコンをウイルスに感染させ、片山の犯行に見せかけたなどと書かれていた。  しかし、片山が16日の裁判よりも前に、都内の河川敷で不審な行動をとっているのを捜査員が目撃しビデオに収めていた。真犯人を名乗るメールが報道機関に送られた後、 片山がいた場所の地面を掘り返すと、スマートフォンが埋められているのが見つかった。さらに、このスマートフォンを解析したところ、 真犯人を名乗るメールのアドレスの痕跡があった。時間をずらしてメールを送信するタイマー機能を使うなどして、片山自身が、真犯人を装うメールを送ったとみられている。
 この事態を受け、東京地検は片山の保釈の取り消しを裁判所に請求。片山は行方をくらまし、保釈は取り消された。
 5月19日朝から連絡が取れなくなっていた片山から19日夜に弁護団に連絡があり、片山は「私が真犯人だ」と認め、 先週、報道各社などに届いたメールを自分が送ったと話し、5月20日に警察に出頭、逮捕された。

 その後、22日の公判で片山は「徹頭徹尾無実」とした従前の主張を撤回し、再度の罪状認否で「全部事実」として罪を認め、23日に保釈保証金1000万円の内600万円の没取が決定した。


裁判
 片山は、犯行の動機を「権力的なものに対する怒りがあった」とあくまでも義憤に基づくものであったと主張した。
 2015年2月4日、東京地方裁判所は、爆破予告メールで航空機を引き返させたハイジャック防止法違反も含め、威力業務妨害など10件の犯行を認定、懲役8年の実刑判決を下した。 片山、検察共に控訴せず、2015年2月19日、懲役8年の実刑判決が確定した。  




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