008 ハイドンの頭蓋骨

−「交響曲の父」の頭部がたどった長い旅路−



 遺体から頭だけが切り離され、その頭部があちこちの人手に渡るという奇妙な事件があった。
 その「頭」の持ち主はオーストリアの音楽家、フランツ・ヨーゼフ・ハイドンである。
 ことの発端は、王立監獄所の所長をしていたヨハン・ペーターという人物が、ハイドンの墓を暴き、遺体から頭部を切断し持ち帰ったことに始まる。 ペーターは人の頭蓋骨をコレクションして「骨相学」を分析するという趣味の持ち主であった。
 ところが、数年経つとペーターは「骨相学」に飽きてしまい、王子の秘書で会ったローゼンバウムに頭蓋骨を譲ってしまう。ローゼンバウムの婦人が 熱烈なハイドンのファンであった為だ。
 頭蓋骨はその後も長い旅路を辿った。いったんはペーターのもとに戻ったが、ペーターの死後は妻が主治医に贈り、その主治医はある男爵に譲り、さらに 裁判までもつれ込み、ウィーン市の所有となった。ようやく胴体のもとに戻されたのは1954年のことであり、ハイドンが没した1809年から150年の歳月が 流れていた。




007 怪奇の扉 009
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